空は相変わらず曇天で。 はらりはらりと雪が降り始めた頃。 曹操は虎牢関へ向けて馬を駆けさせていた。 呼吸する度白い煙が吐き出され、外気に晒された素肌が痛い。 「雪か…やっかいだな」 幾ら装備をしていても、雪が降る程寒くてはたまらない。 耐えず真直ぐ前を見据えながらも、身震いするのは抑えられそうも無かった。 曹操は僅かに顔を顰めながら、誰に聞かせる訳でもなく呟いた。 |
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彼の人前にせず 空に舞う雪に尋ねても 答え得る前に 私の吐息で消えてしまう 何度やろうも 果変わらず ならば 行くか 吐息で消えてしまわぬよう 彼の人の元へ―――――― 雪降る関で…
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曹操によって出された虚偽の詔によって。 諸国から集まった反董卓連合軍の中――公孫讃の白馬騎兵隊の後方に彼はいた。 背後には、大守や将軍と称しても違和感などない面構えの関羽と張飛が続いて。 そんな彼等を率いる彼の姿は、どこか儚くも見えた。 初めて彼を見たのは、先の黄巾の乱。 小柄ながらも剣を振り翳し、立ち回る姿は見事なものだと感じた。 だが、何より彼の瞳に惹かれた。 戦場。敵を真直ぐに見据える鳶色の双眸に鋭い灯が燈り、 戦が終わると鋭かった眼光は無かったかのように深く仕舞われ、代わりに穏やかな彩が表になる双眸に。 どうしようもなく惹かれた。 それが焦がれるほどの想いに変わるまでに時間は掛かる筈もなくて。 気が付いたら思慕の想いへと変貌を遂げていた。 そして自分は今 彼の元へ駆けている。 勿論 想いを告げる為に。 その為に、本陣に縛される総大将の任を袁紹に任せたのだから。 袁紹はどう思っているか知らぬが、所詮自分の為だ。 この戦場を利用してやろうと思った。 譲ってやった気など毛頭ない。 自分は、自陣で縛されているより、自由の利くこちらを選んだのだから。 想っているだけなど 自分には耐えられそうもないから。 蟠りは 吐き出してしまうのがいい。 想いは態度に出さねば 伝わらぬことを知っている。 想いはいつか風化をすることも知っている。 ならば 告げて 風化する精神を忘れぬよう事実として繋げるだけだ。 尤も、受け入れぬなら 「受け入れさせるまでよ――… まっておれよ、玄徳」 曹操はニヤリと口元だけで笑みを浮かべ、手綱をしっかり握り直すと先を急ぐ。 先の乱で初めて見た、優しげな風貌の彼に想いを告げる為に。 馬の蹄が積もり始めた雪を強く蹴った。 まだ雪はやみそうもない。
Fin
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