「張良や太公望にも勝るとも劣らない策士が隆中におります。
 その人を幕舎に加われば天下を取れると名高い、臥龍・鳳雛のうちの臥龍です。
 名を諸葛亮。字を孔明と言います。彼は自ら動きません。殿自ら彼を訪ねてみてください。
 彼なら私以上に殿のお力と成るでしょう」


彼のことを知ったのは、新野で仲間になった徐庶が同陣営を去る時に残した言葉だった。






普段温厚で優しい者程

その逆鱗に触れた時の変わり様は凄まじいとはよく言うが。

あながち冗談でもない…否、昔の賢人は正しかったことを知った。


誤・三顧の礼―長江の伝説―





小さな草庵の中。
こちらに背を向けて、先程から微動だにしない諸葛亮を劉備はじっと見つめていた。
これでここに足を運ぶのは3度目。
1度目・2度目共、彼の不在により目通りは叶わなかった。
義兄弟の張飛に「名ばかりのヤツかもしれねーぞ」などいろいろと言われたし、
関羽もまた、どこかでよく思ってなさそうだったが、自分が天下を掴む為には彼が必要なのだ。
なんとしてでも、彼に幕舎に加わって貰いたかった。
そして、今回。3度目にしてやっと初めての目通りが叶ったのだから、
劉備が必死にならぬ筈などなく、諸葛亮を見つめる眼差しはどこか縋るようなものであった。
草庵に入って、どれほどの時が流れただろうか。

「これで三度目ですね……お待ちしていました。劉備殿」

ふいに、今まで黙り込んでいた諸葛亮が口を開いた。
ゆっくりとした動作で、膝を立て。立ち上がる。

「それでは、我が軍師として…」

これで3度も彼を訪れた労が報われる…と逸る気持ちを抑えながら、劉備は膝を進めると、
ええ。という肯定にとれる返事が聞こえて。彼は羽扇を手に取りこちらへと振り返った。










その頃、張飛と関羽の2人は劉備に言われた通り、草庵の外で彼を待っていた。

「へん! 軍師なんていらねぇぜ。俺と兄者の武があれば十分じゃねぇか」
「頼もしいな…。しかし、曹操に対抗し、漢王朝を再興するには智の力もまた必要なのだ」

面白くなさそうに愚痴を零す張飛を諭しながら、関羽は劉備が消えていった草庵へと目を移した。
これだけやって、
諸葛亮が我が軍の軍師と成らぬという『否』の返事を返さねばよいのだが。との思いを込めて。
何故関羽がこのような心配をしているかと言うと、原因は昨夜の劉備の寝言にあった。
昨日、ふとしたことから劉備の添い寝を申し付かった関羽は、

――諸葛亮め…我が軍師として働かねば、是と言うまで…
  じわりじわりと攻め抜いてやるわ。軍師など頭脳と口さえあれば事足りる…むにゃむにゃ・…

温厚で笑顔を絶やさぬ義兄の口から出た言葉に耳を疑った。
勿論、義兄が起きているか速攻で確認したが。生憎瞼は閉じられて。零れる息は寝息で。
眠っていたのだから。寝言である。
その後も何か続いていたと思うのだが。思い出したくもなかった。如何せん、内容が過激すぎた。
次の瞬間、関羽は心の中で叫んだ。母上―――!!私は人生の選択を見誤ったかもしれませんと。
そして、激しく後悔した。泣きたかった。

「兄者…頼みますから、それだけはしてくださらぬよう…」

しかし、その願いも、関羽の口から呟きが漏れた瞬間。
草庵から聞こえた凄まじい音に、風前の灯火になってしまった。

「な、何だぁ!?」
「兄者!? まさか…」 

張飛は純粋に音に驚き。
関羽は危惧していた事が起きてしまったのだろうことに恐怖した。
ふたりして草庵の入り口へと駆け寄る。
音からしばらくして…劉備が出てきた。
下を向いているのか、顔が影になっていて見えなかったが。
関羽は。本能的にヤバイ…と感じていた。

ドサッ

「雲長、翼徳。悪いがコレを長江へ沈めてきてくれ。
 沈める際には、大きくて重い石を…いや。むしろ岩を入れて置けよ。
 一生上がってこれなくなるぐらいのな。否…確実に上がってこれなくなるように。
 細切れにしてから筵で包んでやれば良かったかもしれんな…」

そんな物騒なことを言いながら。
劉備の片手から放り出されたのは、

「劉備の筵。劉備の筵。なかなか暖かいのぉ。これで儂も暖かい越冬が出来るというものよ」
「曹操…」

筵でぐるぐる巻きに拘束され、何かのたまっている曹操だった。
何が嬉しいのか。満面の笑みを浮かべながら。ウゴウゴと自由にならぬ体を動かしていた。
普段と何が違うかと言えば。衣装が違った。
結び目を解かれた髪は、肩まで流され。
その上からは、野菜の南瓜を模したようなかぶりもの。
裾の長い白い上着に、どこから調達してきたのか気になる白い羽扇。

「あ、兄者…これは一体」

筵など一体何処から出してきたのか、激しく気になるところではあるが。
劉備の背後に渦巻くオーラに押されて、口にすることは叶わず。
昨夜の一件を知らぬ張飛でも、それだけ言うのが精一杯だった。
とにかく、普通に考えて此処にいる筈のない曹操が目の前にいることは悲しいかな…現実だった。

「見れば分かるだろう、曹操だ。ここに居る筈のないな」
「いや、それは分かるんだけどよぉ…何でまた、ここに曹操が?」
「んな事知るか。
 ったく…こちとら三度目にして初めて目通り叶ったと思えば、違う人物が出てくるではないか。
 屈服まで後少し。いいところまでいっておったと言うに……」

挙句、押し倒されそうになって。咄嗟に押し倒し返して筵で縛り上げたが…なんだってこんな目に…
そもそも貴様が何で目の前に現れるんだ。と呟いた劉備の背に渦巻くオーラの黒味が増した。

「やはり主が丹精込めて編んだからなんだろうな。あぁ、儂ってばなんて幸せ者」
「………」

しかし。
曹操は先程と変わらず、満面の笑みを浮かべ。
全く状況を理解していないようだった。
針の寧ろに座らされ。上から象に踏みつけられたような錯覚に陥る沈黙が辺りを支配して…
関羽と張飛の体感温度は、北極圏の気温を…否。絶対零度をはるかに下回った。
そして、最終審判が下された。

「目障りだ。さっさとこの馬鹿を葬ってこい」
「「はい…」」









並走する馬の蹄の音が響いていた。
関羽は、筵で巻かれた曹操を抱えて。
張飛は、先程見た兄者のもう一面を抱えて。
曹操は、筵に包まれて…

「劉備の筵に。関羽の腕か…なかなか良いものだのぉ…vv」


―――ご満悦だった。
自分がこの後、長江の藻屑となるということを聞いていなかったかのように。
阿呆みたいにご満悦だった。

「兄者…」
「翼徳…」

2人は長江へ合流する、漢水への路を並走しながら顔を見合わせた。

――兄者…
――言うな。言いたいことは分かっている
――兄者…俺
――うむ。そうしてくれ。

訳のわからぬ会話が、目と目で交わされて。互いに頷き合う。
互いの目から、洪水のように溢れ出る涙が見えたような気がした。

そして…関羽と張飛。
豪傑と名高い両名は、新たに誓った。
ある意味、桃園の誓いよりも重い誓いを―――…



























この事実は墓の下まで持っていこう。そして、今後兄には絶対に逆らわぬようにしようと。



























その日以来。

関羽と張飛の間には、今までに増して強い絆が生まれ。
義兄弟の中。
劉備は見事に帝王の座を獲ったということだ。
ちなみに、諸葛亮は関羽の危惧したことが起こることなく。劉備軍に加わったとのことである。










































と…忘れていた。一応、曹操のことについて触れておこう。
彼は嬉々としたまま、関羽の手によって漢水へと投げ込まれ…長江へと入り。
後日、呉の国にて漁師の網に掛かり。
気味悪がった漁師の手によって、再び長江を流れていったということだ。
その後しばらくも、
あれは長江の主だとかなんとかと尾ヒレ・腹ビレ・背ビレが付き、呉の国を震撼させたらしい。

以下は曹操を引き上げた漁師(李さん(59)と王さん(57)の)の話である。
































「いやぁ、俺もたまげたさ。
 手に掛かるいつもと違った重さに、大漁の気配を感じてよ。
 こりゃ今日は母ちゃんに怒鳴られるずに済む!!って喜んだんだが。
 引き上げてみたら、俺は目を疑ったな…なんたって網に、筵に包まれた男が掛かってたんだからよ。
 しかもその男。笑ってたんだよ…そうだな満面の笑みってやつで。しかも芋虫みたいに動いてて…
 しきりに何か言ってたけど、なんって言ってたんだっけか?王サン…」

「何だか意味分からんかったが、
 『ムシロゲントク カンウウデ ヌクイノ』とかなんとか繰り返してたんじゃねぇか?」

「そうそう。それが何かの呪いみたいでよ。気味悪くなったもんだから」

「速攻で、長江に戻したんだわ」

「おう。お前だって、そんな得体の知れんモン引き上げたら放り出すだろ?それと一緒だよ」

「いやぁ〜…あれは、40年近く漁やってきた俺でも、肝が縮んだな」

「下の玉もだろ?」

「はははっ…違ぇねぇ」

「んで、俺はやっぱり母ちゃんに怒鳴られたよ。『アンタ、今日の飯どうすんのさ!!』ってね」

「お前んトコのカミさん怖ぇからなぁ―――」

「全くだ。んでよ――…」

(以下関係ない話が延々と続く)

【協力: 江東通信】

















Fin





久しぶりの…ギャ…ギャグで……
しかも。クリスマス更新なのに、NOTクリスマス(苦笑)


あぁあぁ―――!!!!

ソソ様の扱い酷すぎてごめんなさい。無理矢理こじつけ設定でごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい。
ろうは…ろうは…遊びすぎました。

で。でも…執筆中。楽しかったです。ヘヘ…(笑って誤魔化す)
何が楽しかったかって…王サンと李サンの会話が。って嘘嘘。(え?)
阿呆なソソ様と、黒い玄ちゃんが。
そして、聞いてしまった関羽…


ちなみに。この設定は、ヘマトフィリアとは無関係ですよ。
今までのとは、無関係ですよ。

これ読みながら…
日頃の嫌なこと忘れて、思いっきり笑ってくれればいいな―――と。
そんな無謀な願いを込めて。

あとがきを書き逃げてみる。


しかし…
ウチのソソ様は、コスプレ大好きだな…






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